「毎勤はわが国の宝」と指摘される重要統計
わが国の経済統計の中で屈指の重要性を持つ、毎月勤労統計調査を厚生労働省がこれまで不適切に実施してきたことが発覚した。厚労省は長い間、その実態を組織的かつ長期的に放置してきた。それは、統計制度への不信感を高めるだけでなく、過去の景気判断への疑義を生じさせるとても深刻な問題だ。
世界的に見ても、毎月勤労統計調査ほど詳細に全国および都道府県レベルで給与、労働時間、雇用者数などの推移を示す統計データは珍しい。常用労働者を5人以上雇用する事業所に関しては、厚生労働省が抽出して調査を行ってきた。また、500人以上規模の事業所に関しては、抽出調査ではなく全数調査(対象すべてを調査する)することとされてきた。
この特徴ゆえに、多くの経済の専門家が毎月勤労統計調査を重視してきた。「毎勤はわが国の宝」と指摘する経済の専門家もいるほどだ。
背景には、官僚組織において"ガバナンス"が機能してこなかったことがある。この問題は、可及的速やかに是正されなければならない。政府は統計調査の運営方法を見直し、ガバナンスが機能する組織体制を整備すべきだ。それは、政府への信用を左右するだろう。
2013年に認識するも、厚労省は復元せずに放置
厚生労働省が毎月勤労統計調査(毎勤)の不適切な実施を続けてきた原因は、ガバナンスの欠如にある。以前から、毎勤に収録されている現金給与総額などに関して、「過大に推計されているのではないか」「どうもおかしい」と考えるエコノミストはいた。
今回明らかになった不適切な統計調査は次の通りだ。まず、2004年から東京都の500人以上規模の事業所の調査が全数調査ではなく、抽出調査に切り替えられていた。東京都にある500人以上規模の事業所数は約1500だ。本来であれば、1500件の事業所すべてに調査を実施しなければならない。しかし、実際には500件程度しか調査されてこなかった。東京都には大企業の拠点が多く、賃金水準は高い。抽出調査が実施されたことによって、一定期間、給与水準が実態よりも低く報告されてきたと考えられる。
2013年ごろ、厚労省幹部はデータの復元(抽出調査を全数調査に近づける統計処理)が行われていないことを認識したとみられる。しかし、厚労省は復元せず、放置した。復元されたデータは2018年以降のものだ。
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